滴天髄真義〔5〕

  • 劉伯温註  『滴天髓輯要』
  • 任鐵樵註  『滴天髓闡微』
  • 徐樂吾註  『滴天髓補註』
武田 考玄 訳著
《 前  略 》
甲木参天。脱胎要火。春不容金。秋不容土。火熾乘龍。水蕩騎虎。地潤天和。植立千古。〔輯要・補註〕

《 甲木は参天の勢いあるものにして、胎を脱するに火を要す。春は金を容(い)れず、秋は土を容れず。 火熾(さかん)んなれば竜に乗るべし。水蕩(とう)すれば虎に騎すべし。地潤(うるお)い、天和(わ)すれば、 千古にわたって植立す。 》

原註

 純陽の甲木は天にも届かんとする雄壮なものではあります。火は木から生ぜられるのですから木の子です。 旺木は火を得て愈々敷栄するものです。春に生まれたなら金を欺きますので、金を容れることはできません。 秋に生まれるのは金を助ける土を容れることはできません。寅午戌、丙丁多く見るは、辰に坐していましたなら 帰することができます。申子辰、壬癸多く見るなら、寅に坐せば納水することができます。土気が乾燥せず、 水気が消えなければ、長く生きて行くことができるものであります。

任註

 甲は純陽の木で、体はもともと堅固でして、天にも聳える勢いがあり、また極めて勇壮であります。 春の初めに生まれるのは、木は嫩らかで気候はまだ寒いのですから火を得て発栄するもので すし、仲春に生まれるは、旺極の勢いがありますから、その菁英を洩らすのが宜しいのです。所謂、 強い木は火を得て、まさにその頑(かた)さを化すのであります。木を尅するものは金ですが、春金は 休囚に属しますので、衰金でもって旺木を尅するのは、木が堅く金のほうが欠けてしまうのです。 それ勢いの然らしむところです。ですから春木は金を容れないのです。秋に生まれるは、木は失時衰え、 枝葉凋落し始めて行くとは言いましても、木の根は反って引きしまって下に達しているのです。 土は木から尅されはしますが、秋の土は金を生じ洩気するので、最も虚(うつ)ろで薄く、虚気の土は、 下攻の木に遇いましても、木の根を培養することができませんので、反って必ず傾陥に遭うこととなり、 秋は土を容れないのであります。
 四柱の中に寅午戌の火局三合全くして、また丙丁が天干に透っていますと、単に洩気太過するだけでなく、 木は燃え尽きてしまいますから、辰に坐していることがよいのです。それは辰は水庫で、その土は湿、 湿土は木を生じ火を洩らせしめることができますから、火がさかんに燃えているなら、龍、つまり辰の上 に乗っていれば宜しい、と言われるのであります。申子辰の水局三合全くして、また壬癸が天干に透出して いますと、水泛木浮と言われるのですから、寅に坐しているのが宜しいのです。寅は火土の生地で、木の禄旺 ですから、よく水気を納めることができるもので、木が浮泛してしまうということが避けられるのであります。 ですから、水さかんであふれ勢い強ければ、虎、つまり寅に騎する、乗っているのが宜しいと言われるのです。 金もそれほど鋭くもなく、土も乾燥もせず、火も烈しくもなく、水も狂ってもいなければ、木は堂々と立派に 植立して、長くいつまでも生き続けて行くものであります。

徐註

 〔 ほとんど任註と同じで、別に補註として補っているとすれば、火熾んなれば辰に坐し、水泛なれば寅に 坐すのを地潤となし、金木、木土、相尅しないのを天和となす、仁義の象です。と、言っているくらいです。 〕

考玄註

 甲木は、天にも昇らんとするものであり、寒気さめやらぬ寅月には、調候とし ての丙火があることにより、木々の若芽が萌え出します。

  • 春は日干に近貼して、庚金を必要とはしない。
  • 秋は金旺であって、その金を生ずる土を必要としない。
  • 夏は日干辰に座するのがよろしく、冬は日干寅に座するのがよろしいものである。
  • 要するに、全体の調和が取れ、適切な水分と太陽の照暖があるなれば、 いつまでもそびえ立っていることができるものです。

 「春不容金。」とは辛金のことではなく、庚金のことです。その後に「秋不容土。」「火熾乘龍。」 「水蕩騎虎。」とあるのは、この四句で春夏秋冬をいっているのです。
 しかしながら、これだけで甲木の特性が完全に理解できたわけではありません。
 前掲(No.53/54号)の生尅名の表を参照しながら、次の解説を理解するようにしてください。

  • 同じ比肩であっても、甲木にとっての甲木は有力であるが、乙木にとっての乙木は幇身に無力。 このことからして、劫財にしても陽干は有力であり、陰干は幇身に無力である。このことは全ての 干に共通するものです(この点については再び論じません)。
  • 甲木にとって洩身する丙丁火は全局の配合よろしければ、「木火通明」といわれる良好な関係 となり、特に丙火は調候として欠くべからざる暖である。
  • 甲木にとって偏財である戊土(辰・戌・末・丑)を、甲木が疏土開墾する。固い土を柔らかく ほぐして、万物を育成する土となすものであって、単純に尅土と考えてはならない。正財の己土は、 土旺以外の生まれの場合、干合の情が専一なれば合去し、土旺生であれば化土する。
  • 甲木にとっての庚金について、「滴天髓」では「春不容金」といっているが、たとえ日干に近 貼しても必要ないなどと考えてはならない。四柱組織・構造、日干の強弱によって、庚金は劈甲して 棟梁の材、大黒柱にも例えられる有用な材にすることできるものであり、さらに弁証法的発展として、 庚金劈甲引丁、丁火煆金の作用が発生するような原局・大運・流年であるならば、甲木は棟梁の材となり、 庚金は有力な成器となるもので、単純に尅するからよいとか、悪いとかの問題ではないのである。しかし ながら、辛金は全く甲木を断削することも、その良好性を引き出すこともできない。つまり、尅が成立し ないのは、共に減力しない、変化を及ぼさないということになる。このこともまた陰干が陽干を尅するこ とができないという理論として共通するものである。ただし、干の特性として、そのように断定できない のは、前述の如く、丁火煆金といって良好な作用をもたらす関係となるものもあるからである。
  • 甲木にとって壬水は偏印であって、生木するのみ。しかし、癸水は「滴天髓」では至弱といわれて いるものの、至弱であるために、陽干の壬水よりも木の質を強化・良化する滋木培木となるもので、この ことは同じ木である乙木にとっても同様である。

乙木雖柔。

《 乙木柔といえども、羊を刲(さ)き牛を解く。丁を懐きて丙を抱けば、鳳(とり)にまたがり猴(さる)に乗るべし。 虚湿の地、馬に騎すれどまた憂う。藤蘿(ふじかずら)が甲に繋(かか)るは、春よし、秋よし。 》

原註

 乙木は春に生まるるは、桃や李のようなものですし、夏に生まるるは、稲穀物のようなものですし、秋に生まるるは、 桐桂のようなものですし、冬に生まるるは、珍しい草花のようなものです。丑・未に坐するのはよく柔土を制する ことができるのは、羊を料理したり、牛を切り分かつことと同じようなものであります。ただ丙か丁があることが 必要なのです。そうすれば申・酉の月に生まれても畏れることはないのです。しかし、また壬癸が透出していましたなら、 たとえ午に坐していても発展するに難があります。ですから、丑・未月に坐するのを美となす所以がますますわかるの です。甲と寅の字を多く見るのは、弟が兄に従う意で、譬えて言うなれば、藤づるが喬木にまとわりついているような ものですから、斫伐を畏れないのであります。

任註

 乙木は甲木の質で、甲の生気を承けているのです。春は桃李の如く、金が尅すれば凋(しぼ)んでしまい、夏は稲穀物の 如く、水の滋すに生を得、秋は桐桂の如く、金旺ずるを火が制し、冬は珍しい草花の如く、火が湿った土を培うので あります。春に生まるるは火が宜しいもので、その発栄を喜びます。夏に生まるるは水が宜しく、地が燥くのを潤す のです。秋に生まるるは火が宜しく、火が金を尅するのです。冬に生まるるは火が宜しく、気候が寒凍となるを暖め てくれるのです。「刲羊解午」とは、丑・未月の生まれとか、あるいは乙未・乙丑日のことを言っているのでして、 未は木庫で、木の根がしっかり土中にとぐろを巻いているようなものですし、丑は湿った土ですから、生気を受ける ことができるのです。「懐丁抱丙。跨鳳乘猴。」とは、申・酉月に生まれるとか、あるいは乙酉日に生まれるなら、 丙丁が天干に透出して、壬癸の水と相争尅しなければ、制化宜しきを得て、金の強いのも畏れないものなのです。
 「虛濕之地。騎馬亦憂。」とは、亥・子月に生まれて四柱丙丁なく、また戌未の燥土もないなら、年支に午があっても、 発生するのは難しいものであります。天干に甲透り地支に寅があるのを、藤蘿繋甲、藤づるや蔦かつらが松柏の大木 にまとわりついているようなもので、春はもとより助けを得ますし、秋もまた扶けに合う、つまり、四季一年中皆可と するものであります。

徐註

〔 また、補というほどのことは言われておらず、任註、原註を簡略にしただけですので、省略します。 〕

考玄註

 乙木は陰干で柔であると言っても、戊土を尅することはできませんが、己土ぐらいは尅することはできます。 さらに、秋の丁酉月・丙申月は、ほぼ良好な傾向 がありますが、冬はたとえば少しぐらいの弱い午があったくらいでは、 あまり良好とは言えません。しかし、日干乙木に近貼して、甲木が透出し、甲乙木がともに寅とか、 卯とかの根に有情であるなれば、これを「藤蘿繋甲」と言って、春も秋も、つまり一年中良好な関係となるものです。

 以上の如く、“陰干は陽干を尅することはできないが、陰干は陰干を射することができる”、 と初めにいっているのであって、続く「懐丁抱丙。」「跨鳳乘猴。」とあるのは、丁酉(鳳)・丙申(猴)のことです。 ただ、「虛濕之地。」の冬とか、水多の場合は、単に調候の午火があるぐらいでは、安心していられません。 しかし、前述の如く、「藤蘿繋甲」となれば、乙木は陰柔といっても、甲木が幇身し、ともに有根であれば、 おおよそ良好な傾向となりますが、甲木が幇身しないとか、寅卯の支が年支にあるとかする場合は、「藤蘿繋甲」 とは言いません。つまり、次のようになります。

  • 乙木は陰干己土を制することはできる。しかし、辰土・戌土とか、土旺とかを疏土開墾することはできない。
  • 乙木は三夏を除き、日干に近貼して丙丁火が透出することを喜ぶのは、丙火の場合は「反生の功」となり、 庚金が攻身せんとするを丙火で護身し、さらに丁火が日干に近貼しているなら辛金を尅して護身する。つまり、 日干強であれば、洩秀となるのは丙丁火である。
  • 乙木は辛金から尅木される。乙木と庚金が並んでいる場合、金旺の生まれであれば、化金して乙木は辛金となる。 金旺でなく、干合の情専一であれば、庚金は倍力となって、乙木を攻身する。
  • 乙木を生じてくれるものは壬水であるが、壬水以上に木の質を強化し、滋木培木する印が癸水である。
《以  降  略》