病証別・命理学漢方(二十六)

武田  考玄 著

罹りやすい病気と異常

腹   膜   炎

 腹膜炎、と一言で言われておりますが、さまざまな原因によって違いますし、急性のものもあれば慢性のものもあり ます。腹膜とは、腹壁の内面と腹腔内臓器を覆っている膜です。ここに炎症が起きるのを腹膜炎といっているのですが、 急性化膿性腹膜炎、虫垂炎より起きる限局性腹膜炎、結核より起きる慢性腹膜炎(滲出型、乾性型)、胆汁性腹膜炎 (胆石症の人に多い。胆汁がなんらかの原因によって、腹腔内に漏れて、腹膜炎を起こす)などがあります。
 漢方において、急性化膿性腹膜炎は治療の対象ではなく、限局性腹膜炎についてのみ次のような薬があり、他の腹膜 炎は対象外とされております。既述のように虫垂炎は手術をすれば、腹膜炎になどなることありませんし、破れた虫垂 部を漢方では治すことなどできません。破れずして、虫垂炎の炎症のみが腹膜に波及した場合の、限局性に対する漢方 薬でしかありません。炎症を起こした虫垂を早期に摘除すれば、限局性腹膜炎ともなりませんし、まして虫垂破裂によ る内容物の腹腔内ヘの流出や腹膜炎で一命危うくなることもないのです。また次表薬はすべて、結核性のもので、腹膜 炎自体はよくなることはありますが、結核そのものは治りません。
 このほかにもありますが、いずれも結核治療との併用となるものです。胆汁性腹膜炎は悪心・嘔吐が強くなり、軽い 黄胆症も見られますので、急遽医師の診察を受けねばなりません。発熱・白血球増加し手術がおくれますと一命にかか わり、仮に一命取り止めても、術後よろしくありません。黄胆などと素人判断で決めてはならないのです。

《中  略》

横 隔 膜 け い れ ん (しゃっくり・吃逆)

 間隔的に横隔膜がけいれんすることによってしゃっくりが起きるもので、原因はさまざまで、 冷感による場合、アルコールを飲んだ場合、その人にとってある種の食べものを食べた場合、神経質による場合、 横隔膜の周囲に何らかの病変・異常が起きた場合等があり、てんかんによるけいれんは連続的です。 しゃっくりが長く続きますと夜も十分熟睡できず、他病を続発することさえあります。
 びっくりさせることで、このけいれんが止まることもあれば、止まらないこともあり、民間薬として、 柿のへたが有名です。
 漢方では次のようなものがあります。まだこの他にもありますが、原因が他の病変にあるならば、その病に対する薬を用いるべきです。  全く何の病変もなく起きた場合、特に食べ過ぎ、飲み過ぎで起きた場合は、指を喉の奥まで差し込んで、胃の内容物 は嘔吐しきり、それでも治らない場合は、コップの水を、ゆっくりとこれ以上我慢できないほど、息を継ぐことなく飲 めば、大抵治まります。一時治まってまた始まるようであれば、再び胃の中水を嘔吐し、力いっぱいあるだけの息を吐 き出し、息をこれ以上しないと窒息すると思われるくらい、呼吸するのを止めます。この間、鼻から息を吸わないよう 鼻をつまんでいることが必要で、これを二、三回繰り返せば大抵は治まります

症状と漢方薬、参照バックナンバー(天地人)
四逆加人参湯  甘草、乾姜、附子、人参
四逆湯  甘草、乾姜、附子
橘皮竹筎湯  橘皮、竹筎、大棗、生姜、甘草、人参
橘皮湯  橘皮、生姜
  橘皮は白膜をけずり去ったものですが、最近は、陳皮で代用していることが多く、橘皮特有の苦味がなく効力は薄くな っております。症の一段と激しいものは「橘皮湯」の方がよいです。
柿蒂湯 丁香、柿帶、生姜
  柿のへたのみを煎じるのが民間薬ですが、丁香と生の生姜を用いれば一層の効があります。乾姜では感心できません。 真の橘皮を用いる漢方薬店が少なくなりましたから、それなら、ミカンの皮と、柿のへたを乾燥させて湿気のないところに 保存しておくのも必要なことです。

  次に実例を挙げます。

解 命

壬日亥月水旺の壬水分野に生まれる「建禄格」(命造)

 壬日亥月水旺の壬水分野に生まれる「建禄格」。天干地支共に冲尅合局方なく、亥月水旺生にて調候必要なるに、年干に 丙火透出し、辰中癸水、亥中壬水、申中壬水、さらに時支辰中癸水と一気連なり、調候としてはやや不及。日支申が水源とな って日干は最強となるも、年月干丙己並び、己土はやや燥的となって、水太過を多少防ぎつつ、己土濁壬して時干甲木を養木。 日干強となるので、用神はやや不及ではあるものの、調候ともなれば、財ともなる年干の丙。喜神は木火土、忌神は金水、とな る「源清」の命と言えます。

第一運  2才~12才  庚子
   水旺の忌のみではなく、申子辰辰の水局全以上となり、水多木漂、水多火滅、水多土流、水多金沈の忌象発生する大忌の運。
  • 3才~6才の忌の流年に次のような諸病が連続して発生する。  水多木漂(情緒不安定、脳膜炎二回)、水多火滅(心臓、高熱、伝染病)、水多土流(胃腸の病気甚だしく、 下痢、消化不良)、水多金沈(諸病が次々と発生し、足腰が萎えて立つこともできず)なるも、強い性情と努 力によって、徐々に健となっていく。
第二運  12才~22才  辛丑
 丙辛干合、前水旺四年は化水、後土旺六年は合去して、忌の傾向性ある運。忌神運ではあるものの、亥中甲木、時干甲木の救応あって、 かろうじて大病にも至らず。
  • 12才昭和三年戊辰年、加納治五郎校長を頼って灘中学校(現在の灘高校)に入学、柔道に熱中し、初段を取得する。
  • 16才昭和七年壬申年、ボクシングを始め、ジュニア・フライ級のアマチュア・チャンピオンとなる。
    第一、第二運の忌運を乗り越えて、健康な心身となる。第三、第四、第五、第六、 第七運の喜運。戦前、戦中、 戦後の混乱期を生き抜いてきた。
第八運  72才~82才  丁未
 丁壬合不去、前四年火旺、後六年土旺、共に喜の傾向性ある運。
  • 76才平成四年壬申、77才平成五年癸酉の二年間に寿が尽きることを予感していた。しかし、「奇門遁甲」はもちろんのこと、 「漢方」は六十歳頃より、二十年間継続して「八味地黄丸」を服用。また風邪の初期には、「麻黄附子細辛湯」、腸の不調には 「半夏瀉心湯」などを服用していた。座骨神経痛には「コーケントー」による光線治療も自宅で行い、運動は「自彊術」、また 「自律神経訓練法」、「栄養・食事管理」等々、健康のためのあらゆる努力を重ねていたこともあって、死に至ることはなかった。
  • 78才平成六年甲戌年、甲己合去、壬水丙火に接近し、九月に脳梗塞で入院。二十日間で退院(この年は多忙を極め、遁甲を実施 することができなかった結果でもある)。
第九運  82才~92才  戊申
  • 平成十年戊寅の十一月二十九日、心筋梗塞にて生死の境をさまよっていたが、九死に一生を得る。この時、 入院一週間目から、ひどいしゃっくりが続き、医師があらゆる治療をしてくれたが、止まることがなかった。 そこで医師に相談して、柿蒂湯(していとう)を飲み続けた結果、十目目くらいから徐々にしゃっくりの間隔が 長くなり、二週間かかって完全に治癒することができた。